1-1 「暑さ」「寒さ」の仕組

快適な室内環境を考える上で、なぜ人は「暑さ」と「寒さ」を感じるのかを知るべきである。
なぜなら、人が暑さ寒さを感じなくても生きられる動物ならば、気温に関わる何の問題も発生しないからである。
人が暑さ寒さを感じるが故に、不快感や健康の悪化やエネルギーの消費などの様々な問題が生じ、それらを解決する工夫が必要なのだ。

人が暑さ寒さを感じる理由は人が恒温動物であるからに他ならない。
人はその生命を維持するためには、体温を36.5℃前後に保たなくてはならない。
なぜ、36.5℃前後なのかは生物学的に様々な理由があるのだが、ここでは簡単に述べるに留める。
体温が40℃を超えるような温度になると体を組成する細胞自体に障害が起こり始め、生命維持の危険となる。
また、低温の場合は体の中での代謝が鈍くなり、筋肉や内臓を機能させるためのエネルギーが減少する。
個人差はあるが、体温が約20℃を下回ると、心臓の機能が停止をする恐れがある。

このように、人にとって体温は生命の維持に大きく関わる要素となるので、体温を36.5℃前後に調節するための機能を持っているのである。
そして、その調整機能を働かせるために「暑さ」と「寒さ」を感じるセンサーを備えている。
まず、体温を調節する機能について説明する。
体温の上昇を抑えるのは「皮膚表面からの放熱」と「皮膚からの汗の蒸発」による。
一方、体温の低下を抑えるのは「筋肉や内臓などの動きから生じる産熱」による。
放熱と産熱の内訳を次の表に示す(出典:新訂 目でみるからだのメカニズム 堺章著)。この表の通り、放熱と産熱を一定に保つことで体温が調整される。

1日の放熱量 2700kcal
皮膚表面からの放射による放熱 1181kcal
空気の対流と伝達による放熱 833kcal
汗の蒸発による放熱 558kcal
摂取した食物を温める 42kcal
呼気を温める 35kcal
その他 51kcal
1日の産熱量 2700kcal
骨格筋 1570kcal
肝臓 600kcal
呼吸筋 240kcal
腎臓 120kcal
心臓 110kcal
その他 60kcal

次に温度を感じるセンサーについて説明する。
センサーは人の体を覆う約1.5㎡の皮膚に備わっている。
センサーとして最も多いのは、痛みをキャッチする「痛点」で約200万個。
次いで、何かに触れたり触れられたりするときに働く「触点+圧点」が約50万個。
肝心の温度や気温を感じるのは温点と冷点で、それぞれ約3万個と25万個がある。
冷点が温点よりも格段に多く、気温の低下に対する備えが優先されていることが伺える。尚、センサーの仕組みであるが、皮膚に備わる機械受容器が刺激をうけて「求心性インパルス」を発生させる。
インパルスが脳に伝達することにより、人が「熱い!」「冷たい!」などの感覚を覚える。
ここで面白いのは、温点として働く「ルフィニ終末」という機械受容体は神経遅順応性であること。
すなわち、温度変化を感知するセンサーとして働くことである。
お風呂のお湯を最初はすごく熱く感じても、時間が経つと熱く感じなくなるのはこのためである。

以上のことから、人が「暑さ」と「寒さ」を感じる仕組みについて快適な室温環境の観点からまとめる。

「暑さ」について
①気温が一定状態で安静にすれば、それほど暑さは感じない。
②周囲の温度(気温だけではなく、壁や天井などの表面温度)や風により、皮膚表面から放熱すれば暑さを低減できる。
③汗の蒸発により暑さを低減できる。(汗の蒸発は1日700ml~900ml。夏は10Lにも及ぶことがある。ただし、周囲の湿度が100%に近くなると蒸発が妨げられる。水1gが蒸発すれば、0.58calの熱量が気化熱としてうばわれる。)

「寒さ」について
①寒さを感じるセンサーを備えた「皮膚」を衣服などで防護し、放熱を防げば寒さを低減できる。
②周囲の温度(気温だけではなく、壁や天井などの表面温度)を低下させず、風を抑制することにより皮膚表面からの放熱を防げば寒さを低減できる。

冷暖房で室温を快適温度に保つのが、「暑さ」と「寒さ」から逃れる容易な方法であることは間違いない。
それに加え、周囲の壁や天井の温度調節や衣服による調節、また発汗を妨げないことにより「暑さ」と「寒さ」を低減できることが分かる。